特殊相対論をくつがえす
思考実験  

 本論は簡単な思考実験1により,状態の異なる2つの空間を提示し,これらの空間の相違を別の思考実験2によって検出する過程で,特殊相対論の矛盾を指摘し,さらに未知の物理量,深層速度ベクトルによって,2つの空間の状態の相違を説明する.

.序 論

 本論では完全な理論として定着している特殊相対論をくつがえすため,2つの思考実験を提示し,それについて検討を加えるが,それに先立ち,次の2つの意味を包含する 「光速不変の原理」 を仮定する.すなわち,

 「光速不変の原理」…

真空中の光は,光を放出する物体の運動状態には無関係に,常に一定の速さで伝播する.(光が他の光を追い越すことはない)

 「光速不変の原理」…

光源から出た光は,等距離Rにあるあらゆる方向の反射鏡に到着し,反射され,同時刻に戻ってくる.往復に要する時間をとすれば,真空中の光速は2R/で求められるが,これは自然界における普遍定数の1つである.

 さて,以上の仮定をふまえて,次の思考実験について考える.

 思考実験1…ただ1つの理想的天体M(密度は均一で完全な球体)以外,物質が存在しない宇宙を想像し,この天体上に静止する光源から放出された光の伝播について考える.この場合,光源は宇宙の重心に対して静止していて,空間は等方的と考えられるから,光源から左右に出た光は,等距離にある天体上の反射鏡A,Bに「絶対的同時刻」に到着するはずである.
 次に,その天体上空を速度で等速度運動するロケットaを想像する.(図1a参照)
 そして,ロケット内(室内は真空)の中央にある光源が光源の前を通過する時,光を放出したとする.
 この状況を光源のところに位置する観測者から観ると,「光速不変の原理T」より,の速さは等しいので,はロケットの後方の反射鏡Aに先に到着し,前方の反射鏡Bには遅れて到着する.
 次に,この宇宙空間を天体Mと正確に同じ天体M がロケット(これをロケットbと呼ぶ)の進行方向(軸)と平行に,速度 で等速度運動していて,3つの物体(天体M,M,ロケットb)の光源()が軸と垂直な軸上に一致した瞬間を考える(図1b参照)
  

図1a.

 天体Mとロケットa以外,何も存在しない宇宙.この場合,ロケット内の光源から出た光を天体Mから観測すると,ロケットの前方Bより後方Aに先に到着する.

図1b.

 天体M,M′とロケットb以外,何も存在しない宇宙.この場合,空間は対称だから,ロケット内の光源から出た光は,ロケットの前方Bと後方Aに絶対的同時刻に到着する.


 ただし, は天体Mから測定したM の速度で,ロケット内の観測者から測定した場合,天体Mの速度で観測される.
 従って, は相対論の速度の加算則より,




1)

 また,天体M,M とロケットまでの距離は等しく,空間は対称であるとする.
 いま,ロケット内の光源から前後の反射鏡B,Aに向かって光が放出されたとすると,はロケット内の観測者から観て,「等方的伝播」と判断される.
 また,この状況を天体M,M の観測者から観た場合にも,がA, Bへ到着する時刻は,「絶対的同時刻」と判断されるはずである.
 これは天体M の質量が加わったことにより,M 周辺の真空が歪み,その作用が波として空間を伝播し,ロケット内の時空が変化したことを意味する.
 「相対性原理」を仮定として採用している相対論によれば,ロケットa,b内の空間の状態の相違を実験によって検出することはできない.
 しかし,本論では,次章の思考実験2において,これら2つの空間の状態の相違を検出する思考実験を提示する.




.特殊相対論の矛盾の指摘と未知の物理量,深層速度ベクトルの導入

 序論にて提示したロケットa,b内の空間の状態の相違を実験によって検出するため,次の思考実験について考える.
 思考実験2…図1aの天体M上の軸に沿ってロケットaが静止していて,そのロケット内に別のロケットa が,同様に静止している状況を考える.(図2参照)


天体M「絶対静止系」 

図2.

の時刻合わせ.

6個の時計は,絶対的な意味で合っている.

 ロケットa,a 内の中心には光源が設置されていて,これらは天体M上の,軸の交点に設置された光源軸を共有しているものとする. 
 さらに,天体M,ロケットa,a軸の=±L/2,の6地点には静止時において正確に同じテンポで時を刻む同種の時計が,全部で12個設置してある.
 すなわち,M上の2地点にはそれぞれ1個ずつの計2個,ロケットa内の2地点にはそれぞれ2個ずつの計4個,ロケットa 内の2地点にはそれぞれ3個ずつの計6個の時計が設置してある.
 そして,天体=−L/2,の地点に置かれた時計(lock)を光源の左(eft)の時計という意味で,と表示し,=L/2の地点に置かれた時計を光源の右(ight)の時計という意味で,と表示する.
 また,ロケットa内の左右の4個の時計を, , 及び, , と表示し,ロケットa 内の左右の6個の時計を,及び,, , と表示する.
 そして,それらの時計の内で,という対をなす3組の時計の時刻を,アインシュタインが特殊相対論を構築する際に用いた時刻合わせの方法を使って合わせる.
 この場合,宇宙の重心に対して静止していて,「絶対静止系」と考えられる天体M上に静止している3つの光源から放出された光は,観測者に対して等方的に伝播すると考えられるので,この方法によって合わせた6個の時計は,絶対的な意味で合っているといえる.
 さて,次の時刻合わせは,天体Mに対して速度で等速度運動を始めたロケットa内の時計とロケットa内に依然として静止しているロケットa 内の時計について行なう.
 これら2組の時刻合わせの方法は同様であるから,ここではロケットa内のの時刻合わせについて考察する.(図3参照)



天体M「絶対静止系」 

図3.の時刻合わせ.

 この図では,の時刻をの時刻と一致させるために必要な時間調整をにも同様に行なっている.またの時刻をの時刻と一致させるために必要な時間調整をにも同様に行なっている.

 いま,光源から放出された光が,ロケット後方の時計に到着するまでの時間を天体M上に静止している観測者から測定した場合を考える.
 ロケット内で,L/2,の距離があったの距離をが測定すると,ロケットは進行方向に,(ただし,/)の割合で収縮しているから, . 
 従って,から放出された光が,に到着するのに要する時間は,の時計で,




1)

 一方,光に到着するのに要する時間は,




2)

 しかし,ロケット内の時計はの時計に比べて,:1,の割合で時を刻むので,光に到着するのに要する時間差の時刻からが読み取ると,




3)

 つまり,より,(秒)進んでいる.(の時間差についても同様)
 ただし,ここで注意しなければならないのは,の時刻が異なっているのは,観測者から観測した場合である.ロケットa内の観測者にとっては,これら2つの時計は同時刻であり,このままでは,が2つの時計の時刻の絶対的時間差など論ずることはできない.
 そこで,次の操作として,通常は一致していないの時刻をの時刻と一致させるために,ある時間調整を行ない,これと同じ時間調整をさらにに対しても行なったとする.(勿論,実際に時計を操作して時刻を一致させる必要はなく,計算上の調整でかまわない)
 この状況を天体Mの観測者が観測すると,ロケットa内の前方のと後方のは,時刻が一致していて,だけが,(秒)進んでいることになる.
 従って,当然のことであるが,ロケットa内の観測者が,後方の時計,の時刻を比較した場合,より,(秒)進んでいることになる.これは,特殊相対論の予測と一致する.
 また,ロケットa 内のについても同様な時刻合わせと時間調整を行なった後,観測者が後方の時計,の時刻を比較すると,より,(秒)進んでいる.
 さて,次はロケットa内でロケットa が速度 で等速度運動を始めた時に, の時刻合わせを行なう.(図4参照)

天体M「絶対静止系」 

図4. の時刻合わせ.

 この図では,の時刻をの時刻と一致させるために必要な時間調整をにも同様に行なっている. この時,より(秒)進んでいるが,これは特殊相対論の予測する(秒)とは異なっている.[ただし,]

 いま,観測者が測定したロケットa の速度をとして,の時間差から観測すると,いままでの考察より明らかなように,




4)

[ただし,相対論より,]

 そこで,次の操作として,の時刻をの時刻に一致させるためにある時間調整 を行ない,これと同じ時間調整をさらにに対しても行なう.
 この状況を天体Mの観測者が観測すると,ロケットa 内の前方の, , と後方のは時刻が一致するが,は,これら4個の時計より, (秒),また,は,(秒)進んでいる.
 従って,ロケットa 内の観測者が,の時刻を比較した場合, より進んでいる時間は,




5)

 この結果は,特殊相対論の予測と矛盾する.
 特殊相対論を構築する際に用いた「相対性原理」の仮定によれば,お互いに相対運動をしている慣性系は同等であるから,物理法則はあらゆる慣性系で同じでなければならない.
 従って,天体Mの上空を速度で等速度運動するロケットa内の2個の時計,の時間差が,観測者の測定で,(秒)ならば,ロケットa内を速度 で等速度運動するロケットa 内の2個の時計の時間差は,観測者の測定で,(秒)でなければならない.
 しかし,本論の思考実験によれば,そのような結果は得られない.
 ところで,図1bのロケットb内にあるロケットb 内の4個の時計,(の距離はLで,中央には光源が置いてある)を使って,時刻を合わせた場合はどうか.(図5参照)




図5.図1bのロケットb内でロケットb′が静止している.

 この状態での時刻を合わせると2個の時計は,絶対的な意味で合っている.

 は,ロケットb内にロケットb が静止していた状態で時刻を合わせたものである.
 この場合,ロケットb 内の光源から放出された光は,ア・プリオリに等方的に伝播するから,は絶対的な意味で合っているといえる.
 次に,ロケットb内を速度 で等速度運動するロケットb 内での時刻を合わせるものとする.(図6参照) 




図6.図1bのロケットb内を′の速度で等速度運動するロケットb'.

 この状態での時刻を合わせ,さらに,の時刻をの時刻と一致させるために必要な時間調整をにも同様に行なう.
 この時,より(秒)進んでいるが,これは特殊相対論の予測と一致する.

 この2つの時計の時間差をロケットb内の観測者が読み取ると,いままでの考察より明らかなように,より,(秒)進んでいることになる.そこで,の時刻との時刻を一致させるために,ある時間調整″を行ない,これと同じ時間調整をさらにに対しても行なう.
 この状況をロケットb内の観測者が観測すると,前方のと後方のの時刻が一致していて,だけが,(秒)進んでいることになる.
 従って,これも当然のことであるが,ロケットb 内の観測者が,後方のの時刻を比較した場合,より,(秒)進んでいることになる.これは,特殊相対論の予測と一致する.
 しかし,同じ方法で時刻を比較したロケットa 内の時計の時間差,(5)とは異なっている.
 以上の議論より,ロケットa 内の4個の時計()とそれに対応するロケットb 内の4個の時計()の対比は次のようになる.(以下は図4と図6の説明)


 ロケットa′内の時計(図4)
左側(後方)     右側(前方)

*ロケットa が,運動しているロケットa内を等速度 で運動している時に,時刻を合せる時計

*ロケットa が,運動しているロケットa内に静止している時に,時刻を合せる時計

(ロケットa内の空間は、深層速度ベクトルを持つ)

 ロケットb′内の時計(図6)
左側(後方)      右側(前方)

*ロケットb が,運動しているロケットb内を等速度 で運動している時に,時刻を合せる時計

*ロケットb が,運動しているロケットb内に静止している時に,時刻を合せる時計

(ロケットb内の空間には,深層速度ベクトルは存在しない)


 さて,以上の思考実験により,図1aにおけるロケットaと図1bにおけるロケットbの内部の空間の物理的状態の相違を検出する方法を提示できた.
 ところで,の時間差(5)が特殊相対論の予測と一致しなかった原因を何に求めたら良いか.その原因を説明するためには,ロケットa内の空間が,何らかの基準系に対して,“ある速度”で運動していると考えれば良い.
 しかし,現実の物理空間には,「絶対静止系」など存在しない訳だから,“ある速度”をそのような基準系に対する速度と考えることはできない.
 そこで,本論は,空間は重層構造を持つと想定する.
 つまり,真空を1つの層と考え,現実の物理空間を別の層と考え,真空上の各点に想像上の静止空間(深層静止空間)を考える.
 そして,光の伝播が異方的と考えられるロケットa内の空間は,深層静止空間に対して速度で運動していると考える.このような時,ロケットa内の空間は,深層速度ベクトルを持つと定義する.[注]
 一方,光の伝播が等方的と考えられるロケットb内の空間には,深層速度ベクトルは存在しない.
 ただし,深層静止空間は実在の空間ではない.質量による“空間の引きずり効果の程度”を深層速度ベクトルという未知の物理量の大きさによって記述するために導入された,想像上の空間である.(ただし,“空間の引きずり効果の程度”をベクトル表示した場合,深層速度ベクトルとベクトルの大きさは等しいが,向きは逆になる)            
 そして,光はこの静止空間の各点に対して等方的に伝播すると考えると,光速は光源の速度に依存しないことが理解できる.
 また,深層速度ベクトルは,物理空間自体が持っている速度ベクトルではない.現実の物理空間内の点と同一座標上にある深層の真空内の静止空間(深層静止空間)を起点とし,その点と同一座標を占める物理空間を終点とするベクトルである.
 さて,次はいままでの考察の中で導入された深層速度ベクトルの大きさを実際に導く.本論ではこのベクトルの大きさを特殊相対論が予測するの時間差,(秒)と本論思考実験2が予測した時間差,(5)より導く.
 ただし,一般には,ベクトルの方向は明らかではないので,ここで求めるベクトルの軸方向の成分を(ただし,>0)とし,さらに次のようなを定義する.


 

これにより,

6)

 

7)



8)

 しかし,ここで問題にしているのは,>0の場合であるから,マイナスの解を削除すると,


 

9)

 以上で,深層速度ベクトルの軸方向の成分を求めることができた.
 さらに,同様な実験を軸,軸方向についてくり返すことにより,の大きさを求めることができ,これら3つの方向の成分を合成すると,深層速度ベクトルの大きさを求めることができる.




.特殊相対論を超える新たな視点

 この章では,特殊相対論のいくつかの誤りについて論じ,修正を施す.
1.特殊相対論によれば,ローレンツ変換における「静止系」と「運動系」,あるいは,ミンコフスキー時空座標における「直交座標系」と「斜交座標系」の間の関係は,数学的に同等・可換であった.
 しかし,本論では,数学的同等性は,必ずしも物理的同等性と一致しないとの立場から,深層静止空間,あるいは,深層速度ベクトルを持たない物理空間にローレンツが考えていた意味における「静止系」の地位を与え,これらの「静止系」に対して運動している空間,あるいは座標系を「運動系」と考える.そして,本論では,ローレンツ「静止系」を仮にミンコフスキーの「直交座標系」に対応させ,ローレンツ「運動系」をミンコフスキーの「斜交座標系」に対応させることにする.これらの対応を考慮すると,視覚的にはお互いに等速運動している座標系の間の空間収縮と時間の遅れについても,その理由は異なってくる.すなわち,「静止系」に対する「運動系」の物差しの収縮は,真の収縮(収縮)であるが,「運動系」に対する「静止系」の物差しの収縮は,別の理由に基づく.
 ここでは,「静止系」をロケットb,「運動系」をロケットb として,「静止系」の物差しの収縮を次の2つの方法によって,測定する.
@ロケットb の観測者がロケットbの軸に沿って置かれた長さLの物差しの先端を通過する時,ストップ・ウォッチをスタートさせ,後端に到達するまでの時間間隔を測定すると,ロケットb の固有時は,ロケットbの固有時に比べてゆっくり進むので,観測者がb内の物差しの両端を通過するのに要する時間は,相対論成立以前の古典物理学で予測される時間に比較して,の割合で短くなる.
 そこで,観測者はロケットb内の物差しが,の割合で収縮したと判断する.これは,ロケットb 内の時間の遅れに起因する収縮である.(収縮)
Aロケットb 内でLの長さを持つ物差しの両端に,2人の観測者(左側と右側の観測者の意味)がいて,そこには,それぞれ1個の時計が置いてある.そして,2人の観測者は,アインシュタインによって,操作的に定義されたロケットb 内での同時刻に,ロケットbの軸に沿って置かれた物差しの目盛りを読み取る.そして,そのことによって確認した自らの物差しの長さとロケットb内の物差しの長さとの比較より,ロケットbの物差しの長さを導く.
 この時,ロケットb の2人の観測者はロケットb上の物差しから, という長さを読み取る.
 そして,b の観測者は,自らの物差しとロケットbの物差しの長さの比較として,次の値を得る.




1)

 これより,ロケットb の観測者は,ロケットbの物差しが,進行方向に,
の割合で収縮したと判断する.(収縮)
 つまり,この収縮は「運動系」としてのロケットb 内の物差しの真の収縮(収縮)と,アインシュタインが操作的に定義したロケットb 内の時計の同時刻の相対性という2つの原因によって生じた収縮である.
 次は,「運動系」の時間の遅れについて考察する.「静止系」としてのロケットbと「運動系」としてのロケットb 内の時計で経過する時間のア・プリオリな関係は, で,光は深層静止空間のあらゆる点に対して等方的に伝播する.
 しかし,「相対性原理」に基づいて,自らを「静止系」と考えている「運動系」の観測者は,光が自らの座標系に対して等方的に伝播していると判断するため,光の到着時間の遅れを確認できず,相手(ローレンツ「静止系」)の時計が,ゆっくり時を刻むためと結論する.
 しかし,これは見掛け上の時間の遅れである.(これについては,ミンコフスキー時空座標を用いると良く理解できる)
 以上のことを考慮すると,双子のパラドックスの問題についても,ア・プリオリな時間の遅れについて論議できるため,説明が非常に明解になる.
 2.図1bの思考実験で,2つの天体MとM の距離が時間の経過とともに無限大になるに従い,MとM の近傍の空間は次第に相手の質量の影響が無視できるようになり,深層速度ベクトルが存在しない空間(ローレンツ「静止系」)に近づき,MとM の近傍の深層静止空間同士は近似的に2つの天体の相対速度 に等しい相対速度を持つようになる.
 従って,深層静止空間はニュートンが想像していた「絶対静止系」ではないが,ローレンツの意味における「静止系」と考えられるので,一見矛盾する表現ではあるが,「相対的絶対基準系」といえる.
 3.深層速度ベクトルが存在しない空間内の2点A,B(ローレンツ「静止系」)が,遠距離を隔てて等速度運動している状況を考える.この場合,点B上の光源から放出された光は,その付近の深層静止空間に対して等方的に伝播する.従って,その伝播の状況を点Aの観測者が遠隔測定した場合には,物理定数としての光速とは異なる超光速を観測する場合も出てくる.(例えば図1bにおいて,天体MとM の観測者が天体M とMの周辺の光速を測定した場合,± の値を得る)
 しかし,このことは,光速が光源の速さに依存することを意味するものではないし,光を追い越す物体が存在することを意味するものでもない.
 遠隔測定で超光速が存在したとしても,光が観測者Aの地点まで伝播してきた時には,光はその地点の深層静止空間に対して等方的に伝播する訳だから,「光速不変の原理」に矛盾する状況が生じている訳ではない.
 ところで現時点では,深層静止空間の各点の間の相対速度に限界速度を設定すべき理由は存在しない.存在するのは,運動する物体とその物体が占有する空間の深層静止空間との間の相対速度の限界値である.




.結 論

 本論は,特殊相対論の予測と異なった結果を与える思考実験を提示し,そのような空間の状態を説明するために,物理空間の深層に静止空間を想定して深層速度ベクトルの存在を予言し,その大きさを求める公式を提示することに成功した.



 [注意]
 著者の見解によれば,「深層静止空間」と「深層速度ベクトル」の内で,より本質的なのは,後者の方である.[前者は概念であり,後者は物理量(実在)である]
 量子電気力学によれば,電気力を伝える真空は,われわれには観測することができない「仮の姿」の粒子と反粒子がペアとなって密に詰まった状態の空間と考えられている.
 また,不確定性原理によれば,これらの仮想粒子は,最低のエネルギー状態にあっても,静止することなく,常にゆらいでいる.
 従って,「深層速度ベクトル」という物理量は,マクロな古典的物体としての光源とその光源が占有する空間の近傍の真空を構成している無数の仮想粒子との間の相対速度の平均値と考えるのが妥当であろう.